蒲田で中央分離帯にバスが突っ込んだ。よく航空機事故は続くと言われているが、バス事故もそうなのだろうか。ここへきて業界の問題がどんどん噴出しているような気がする。

蒲田での事故、運転手はわき見と証言しているようだが過労による瞬時の居眠りではないのか?。到着地の蒲田駅が近づき、ふと気が抜ける。運転する者の魔の時間である。

わたしが乗務していた時の経験だが、意識が飛んでることがあった。夜行スキーバスを東京から北志賀まで運行している時、上田市内を走行していた。次に気付いた時に、わたしは長野市のバイパスにいた。一般国道だから信号もある、右左折の必要なところは無かったが、道は真っすぐではない。幸い、事故も起こさず普通に走っていた。乗務後にチャート紙を見ると発進、停止に問題個所はなかった。この時は複数回の往復運行、一人乗務、今考えると恐ろしくて仕方ない。

軽井沢バス事故の情報が少しづつ公開されている。現場手前の監視カメラ映像では、75キロ~80キロ出てる。交通事故鑑定人なる人たちが様々なコメントをしているが、元ドライバーの立場から言わせてもらえば少々的外れだと感じる。

べーパーロックはあり得ない、というコメント。確かに750mでは考え辛い。ただ、ブレーキシューが焼けることは考えられる。一つ目の監視カメラ映像は、峠を下る直前のもの。わたしが運転していた時は、ここの速度はもっと遅い。このカメラ設置場所直後に左カーブ、8%勾配の下りがある。制限速度が50キロだからといって、それを信じて下りかけると、車体は思いのほか加速する。道を知っている運転手なら用心する場所だが、経験が浅ければ突っ込んでしまったのかもしれない。

大型バスであの峠を下る時、わたしは40キロ以上出さない。夜行バスで寝ている乗客の乗り心地を考えると、50キロで下った時の横Gは不快以外の何物でもない。

ブレーキ系統に故障が無かったと仮定すれば、今回の事故原因は、下り始めに予想外の加速をしてしまい慌てる、排気ブレーキを操作するが効かない、ブレーキを多用する、ブレーキシューが焼けて効かなくなる。もう一つの可能性は変速ギアの選択ミス、わたしは4速で下っていた。経験の浅い運転手は5速を選択する。当然、排気ブレーキは効かない。

排気ブレーキとは、分かりやすく言えば「よく効くエンジンブレーキ」である。AT車の場合は「O/Dオフ」した状態だと思ってもらっていい。ただ、古くて整備不良の機材であれば、排気ブレーキが殆ど効かないものもある。これはバスメーカーによっても違うが、今回の三菱ふそう製の機材は他に比べれば効きが良い。

70才の運転手がに意識喪失し、ツアーコンダクター(添乗員)がハンドルを操作し10キロほど走行した事故。よく無事だったと感心する。わたしのようにバス運転経験があればいいが、普段、乗客の世話役として乗っているだけの添乗員がハンドルを操作する。でも、出来ることなら、そんな長時間危険な状態を続けるよりも、停車させられなかったのか。この時の乗客の恐怖は如何ばかりだったか、年齢による乗務制限も必要なのではないだろうか。

四国でのインバウンド(訪日外国人観光客)ツアーバス事故。インバウンドツアーは乗務が連続する。わたしが乗務していたのは、成田空港から関空までの6日間や5日間コース。休みは殆どなく、行ったり来たりする。幸い、夜行ではないので、毎晩暖かいベッドで眠ることは出来る。当時、最長の連続勤務は35日間だった。この時は一日の走行距離が短かったし、わたしも若かったから何とか走っていたが。

では、これからどうすれば悲しい事故が無くなるのか。

規制をきつくするだけでは解決しない。

慢性的な人手不足を解消するためには、バスの台数を減らす、運賃が上がる、運転手の待遇が良くなる、運転手を目指す若者が増える。

こんな単純であればいいのだが。

当面、格安ツアーには手を出さないことが唯一の自衛手段なのかもしれない。

written by Yoshinobu Iriguchi