テレビをつけた途端に悲惨な事故の様子を目にした。以前は有料道路だった「碓氷バイパス」(国道18号線)の下り坂でスキーバスが転落事故を起こし、多数の死者が出ている。
数年前まで軽井沢町在住だったわたし、スキーバスに乗務したシーズンもあった。現場は峠を登りきって軽井沢の町へ向かって下る場所。横川(高崎)向けに「登坂車線」があるくらいのキツい勾配になっている。
このバスの行き先が「北志賀方面」、わたしが乗務していた時は、午後10時半頃に新宿を出発。関越道を練馬から東松山まで利用するだけで、あとは一般道を進む。全線高速利用だと早く着きすぎると言われていたが、通行料金分のコスト削減の意味も大きいのかもしれない。
東松山からは17号線で高崎、その後は横川のドライブインでトイレ休憩と乗務員の腹ごしらえ。このドライブインはチェックポイントで、立ち寄りカードの記入を求められた。コーヒー飲み放題と温かい蕎麦、モツ煮をご飯にかけて食べるのが好きだった。
碓氷バイパスは幹線道路だけあって凍結防止、除雪はほぼ完璧と言えるほど行われる。ただ、事故発生が午前2時前後ということを考えると、路面凍結が始まっていたのかもしれない。
事故を起こしたバス、三菱ふそう製の「ニューエアロ」。新しいバスではないが、ドライバーの評判も良く、運転し易い機材である。わたしがスキーバスに乗務したのもこれと同型。雪道でも他メーカー製に比べるとチェーンをかけるタイミングを遅らすことができる。これがドライバーの慢心を呼ぶこともあるが、わたしは怖いのですぐにチェーンを装着した。知り合いのドライバー達からは臆病者と思われていたかもしれない。
現場の上空映像、有料道路時に料金所があったところから3つ目のカーブ。道を知っているドライバー心理からすれば、少しだけ気が抜ける場所である。路面凍結はなかったらしい、だとするとスピードの出しすぎかもしれない。わたしがここを通るとき、いつも40キロ以下、後続車から煽られることも多かった。下るに任せておくと60キロ以上になってしまう。
ドライバーは60代で2名体制と伝えられている。横川で腹ごしらえをしたとなると居眠りの可能性もある。ヒーターの効いたバス、中でも運転席はとても心地良い。
今だから話せるが、当時、わたしは一人乗務だった。
一人だけで午後7時発の「シャトル便」(関東各地から新宿まで)、新宿都庁辺りで30分ほど時間調整の後、出発する。三芳PAまたは高坂SAで休憩、東松山からは一般道をひたすら走る。最後の休憩は信州中野IC近くのドライブイン。スキー場到着の定刻は午前7時。これを何往復か連続で乗務したことがある、よく事故を起こさなかったものだ。
もうこんな悲しいニュースを目にしなくてもいいようにしてほしい。
また、亡くなられた方の御魂が安らかならんことを。
written by Yoshinobu Iriguchi