東京小金井市で大手鉄道会社の路線バスが暴走した。まだ若いドライバーさんだったが、普通の状態では起こるはずのない事故だ。病院に搬送された彼の症状が分からないから原因は報道されてないけど、どうなのだろう。

鉄道系のバス会社は労務管理がしっかりしている。乗務員組合もあって決して無理な勤務はさせないはずである。一般企業であれば、年一回の健康診断も二回実施されていたとのこと。ただ、歳を重ねれば、それなりに様々な病気が発症する。最長で半年前の診断では足りないのかもしれない。

わたしは3年前に運転席を降りた。たまたま受けた骨髄移植の事前検診で不整脈が見つかった。どこの会社にも属さず、フリーのドライバーとして糧を得ていたが、自分なりの基準を持っていた。多くの人の生命を預かる以上、運転手は完璧でなければならない。ましてフリーという後ろ盾を持たない立場にあっては一つのミスで道が閉ざされる。だからこそ、ドラマのセリフではないが「わたし失敗しないので」と自分にプレッシャーをかけていた。

少子高齢化の影響は公共交通にもあらわれている。

以前、バスドライバー募集に特化した就職説明会の様子をテレビで観たが、その中に若い人が殆どいない。他に仕事が無いからバスでも乗ろうかという「デモシカ」の人たちが多いような気がする。

バスを運転するには、大型二種免許が必要である。わたしは30年以上前に取得したので驚くほど安い費用で手に入れた。今では自動車学校へ通わないと取得が難しい。費用も大きくなっているのでハードルは高い。そこまで金をかけてバスに乗っても、さほどの収入にならない。

かつて、わたし達が子供だった頃はバスの運転手は今のパイロット並みの扱いだったと聞いた。大手バス会社にあっては運転手様で、バスガイドは家来のような感じ。給料は普通だったが、土産物店やドライブインに寄ると「謝礼」が手渡されたり、貸切運行であればお客から「チップ」が出た。税申告しなくてもいいお小遣いで、中には給料には手を付けなくても暮らして行ける状態だった。わたしがフリーで乗り始めた頃でも土産物から諭吉さんをいただいたこともあった。今では自分の昼食代も請求されるらしいからドライバーとしての旨味もない。

ここ数年で状況はもっと悪化する。ベテランドライバーがどんどん定年退職し、若い人たちは入ってこない。デモシカ中年バスドライバーがハンドルを握る。バスの運転は免許さえ取れば出来るモノではない。経験を積むまで育てるのに多くの時間を要する。デモシカもオッサン達では育て終わった頃に定年を迎えてしまう。

最近、地方に於いて「無人タクシー」が導入されようとしている。これだけテクノロジーが発達したのだから、都会に於いても無人バスは運行出来ないものか。難しい課題かもしれないが、これが実現されないと路線バスは破綻する。

わたし達の移動手段を守るために真剣に考えないといけない、もう待ったなしなのだから。

written by Yoshinobu Iriguchi