「テレビで言ってたから本当なんだよ」なんてセリフは過去のもの。一般家庭にテレビが浸透して半世紀。テレビの、特に国営放送(日本放送協会)の報道には間違いがないと誰もが思い込んでいた。思えば、ラジオが情報源だった先の大戦時、大本営は自国に都合の悪いことは公にせず、捏造した戦況を放送し続けた。国民はそんなウソを信じて「お国のため」と、若く尊い命を戦場へ送り出した。異を唱えれば特高に連行され、周りからは非国民呼ばわりされる。正しいことが封殺された悲惨な時代だと聞く。
そんなことがあっても、純粋な日本人は「テレビの言うことは正しい」と思って生きてきた。わたし自身もテレビに毒され、原発は素晴らしい、この国の発展には欠かせないものだと思わされて来た。
わたしたちがテレビの言うことを信じなくなったのは、4年前。
「ただちに健康への影響はありません」などと他人事のように喋る場面を何度も見せられたとき。そのとき、フクシマでは大変なことになっていたのに、多くの国民はそれほど深刻なことだという認識は持たなかった。正しい情報を正しく報道してくれていれば、無用な被ばくを防ぐことも出来たはずである。その中でも「本当のことを知った人たち」は被爆防止のための疎開、移住を始めた。その人たちに向かってフクシマに残り続けた人たちが「非国民」呼ばわりする光景を目にしたときに愕然とした。あの大戦中と同じ状況をそこに見た気がした。
今夏、わたしは某民放局の特集に出演した。番組宛に意見を送ったのがきっかけだったが、実名、顔出しで出演した。暑い夏の午後、半日にも及ぶロケ、局内での収録。数日後のオンエアを観て愕然とした。わたしの言いたかったことはそれじゃない、制作者に都合の良いところだけを編集し、彼らの意向に沿ったとんでもないものになっていた。ちなみにこの局では、つい最近、キャスターが降板させられたばかりである。
他局だが、平日夜の10時枠の報道番組にあっても、歯に衣着せぬ発言をしていた元官僚が「本当のことを言って」追放された。テレビ局に対して、時の政府が干渉、コントロールするのは、まるで「大本営発表」ではないのか?。この番組のメインキャスターも、長いものに巻かれて、事なかれ主義の臆病者になった感がある。
何が正しいか、自分で判断しなければならない。情報が氾濫する現代、その中から自分の信じるべきものを見つけるのはたやすいことではないかもしれないが。
ことの真相を正直に伝えてくれる報道がなされることを願うばかりである。
written by Yoshinobu Iriguchi