今夜のNHKスペシャル、「無届け介護ハウス」の現状を観た。無届け=悪・悲惨・ブラックという印象を抱いて観始めたが、その内容はわたしの予想を大きく裏切った。
自分にはまだ関係ないと以前は思っていたが、もうそんなことは言っていられなくなった。特別養護老人ホームの待機者が50万人を超え、待期期間は5年以上になるという。民間の有料老人ホームは空きがあっても、月間25万円を超える費用に、おいそれとは入居できない。
そんな中で増えてきた「無届け介護ハウス」。通常、無届け=不法で、テレビに当事者が実名・顔出しで出てくることはないから名古屋の無届け介護ハウスの経営者が堂々と出てきたときには驚かされた。ところが、彼の言うことは不法でもなんでもなく、真っ当なものだった。そんな彼を頼る人たちが多くいるのも頷ける。
ならば、現在の「老人ホームの基準」を見直すことはできないのだろうか。
○ 個室でなければならない
○ スプリンクラーを設置しなければならない
この二つだけをとってもみても開設には大きな費用が必要になる。完璧なプライバシーと安全を担保するには仕方ないのだろうがハードルが高すぎる。その初期費用は入居費に転嫁するしかない。
「フェリーでも新幹線でも様々な料金ランクがあるのだから、高い料金を払えない人たちのためにも安いクラスという選択肢があってもいいのではないか?」と無届け介護ハウスを経営している彼が言っていた。当然のことながら、硬直化した遵法精神しか持ち合わせてない名古屋市の職員は「個室化への改善計画書を早急に作成して届け出ろ」と言うばかりである。一地方公務員としては仕方ないことだろう。
この国の方針は「介護は家庭で行うもの」としている。にもかかわらず、介護離職ゼロを目指すなどと大きな矛盾を抱えている。この国に「サザエさんのような三世代同居家庭」がどれほどあるのか。そんな家庭を基準として在宅介護を推奨して、そのために職を辞することをしないようにと言う。
政府は特別養護老人ホームを待機者ゼロに向けて建設する方針らしいが、現在でも特養の職員が足りてないのに、どうやって賄うのか。外国から介護職員を「輸入」する手もある、この国が一番苦手な方法だが、人手不足を解決するには仕方ない。
もう他人事ではない、みんなが真剣に考え、政府がとんでもないことを始めないように目を光らせなければならない。
無届け介護ハウスと有料老人ホームの間に「エコノミークラス老人ホーム」基準を作ってもらいたいものである。
written by Yoshinobu Iriguchi