台湾で大きな地震が発生した、明らかに「手抜き」と思われるマンションが倒壊した。周りの建物に殆ど被害が見られない状況だから、この建物だけに瑕疵があったことは明らかだ。
数年前、台湾の友人のところに何度も遊びに行っていた。余裕でもあれば台湾に「別荘」があればなどと夢のようなことを思ったりもした。台湾では日本以上に不動産の動きが活発である。友人のポストにも毎日チラシが撒かれていた。
台湾だから安いんだろうと思ったら、それは大きな間違いであった。
元々、九州ほどの面積しかない「国」なのに、2千万人を超える人たちが暮らしている。国土の真ん中に山脈が走り、建築可能な土地は意外なほど少ない。台北に近い場所だからかもしれないが、当時のレートで1LDKの物件でも1千万円はくだらなかった。台湾の平均月収が4万台湾ドル、日本円で約12万円。
台湾は離婚率が低いと言われている。住宅一つとってもこんな状況なのだ、とても一人の稼ぎでは生活がままならない。共稼ぎの家庭が当たり前で、一生懸命生きている人たちが多かった。
今回の物件が分譲なのか賃貸なのかは分からないが、台南であってもそれなりの負担をしていたのだろう。
テレビで観た一斗缶に驚かされる。生コンの量を「節約」すればコストは下がる、一斗缶の容量は18リットル。この空隙に鉄筋が配されていないことにも驚かされる。配筋が正しくなされれば、一斗缶の入る隙間は無いはずなのに。
かつて、軽井沢で一戸建ての営業をしていたとき、営業職の分際で、わたしは必ず基礎コンクリートの打設に立ち会っていた。上着の袖をまくり上げて素手で生コンを触る。それだけで現場の職人たちから嫌な顔をされる。嫌われてもいいと思っていた、生コン会社の試験室を経験していたので、直に触れば大体分かる。施工がし辛いからと、職人は生コンに注水しようとするが、わたしはそれを許さない。コンクリートの配合計算をもとに製造された生コンであれば、水の量が増しただけで強度が低下する。固いと「す」が入ると職人は言うが、それを防ぐために振動機を使うのが彼らの仕事なのだ。確かに面倒かもしれないがその仕事を完璧にこなしてこそ彼らがプロとして認められるのだから。
台南、一度だけ高雄まで行ったときに通っただけの街。それも高速バスの車窓からだから殆ど印象に残ってない。この不幸な「人災」で亡くなられた人たちが気の毒でならない。危ない建物は今回倒壊したものだけではないだろう。二度とこんな悲劇が起こらないよう徹底的に調査してほしい。友人とは疎遠になってしまったが、台湾の人たちの笑顔、人懐っこさがわたしはとても好きだから。
written by Yoshinobu Iriguchi