介護施設の職員が入所者をベランダから突き落とす、信じられないようなショッキングなニュースに言葉を失う。救急救命士の資格を持つ彼に、どうしてこのような残虐な行為が出来たのか。
資格、公の機関が認めた「お墨付き」。人生をゲームに例えるなら、勝ち抜くためのアイテムを手にしたようなものである。
川崎市の施設に勤めていた彼は人命救助の資格を持っていた。その彼が人命を故意に奪うということは、常識では信じられないことである。
報道によって、徐々に彼の人となりが公開されてきた。
大人しい、目立たない、でも、合唱コンクールでは指揮棒まで購入して大役を果たした。父親の介護経験から初めての仕事先としてこの施設に就職した。
自分で突き落とした後に救命処置をしたと言われている。その後は第一通報者として消防に連絡を入れている。
かつて、放火して通報し、自ら消火にあたった消防団員が逮捕された事件があった。
今回の「動機」として、そのようなことは考えられないだろうか。
介護施設に勤めていては、彼の資格を活かせる機会はさほど多いとは言えない。その上、注目されることもないだろう。
自己顕示欲、この事件の根源はここにあるように思える。
資格を手にすれば、大手を振って、人とは違うレベルの仕事が出来る。
でも、資格があるからといって、資質があるとは限らない。また、その個人の理念が合致していることは稀かもしれない。
介護現場で仕事をするということは、相当の忍耐力を必要とする。人手不足による無理な勤務体系によってストレスが増す。入所者はそんなことは考慮できる状態ではない。だから殺人まではいかなくとも、虐待が日常化していることも頷ける。
軽井沢でのバス事故にしても、亡くなった運転手は資格を有していた。その後の報道によれば、適正検査での結果は酷いものだった。通常であれば「バスを運転してはいけない人間」ではないだろうか。常態化した人手不足によって駆り出されたとすれば、彼も被害者なのかもしれない。
これしか出来ないからと、嫌々仕事をしている人間に命を預けるのはまっぴらである。
それが介護施設であろうと、乗り物であろうと違いはない。
資格だけではなく、「資質を見極める」体制の確立を望みたい。
written by Yoshinobu Iriguchi