軽井沢スキーバス転落事故の原因が明らかになってきた。前回も書いたが、わたしも以前、同じコースに乗務していた。テレビでは、街灯が無く暗い、道幅が狭くカーブが多く危険などと報じられているが、わたし達は普通に運行していた。

わたしはフリーのドライバーだった。お世話になったバス会社は報道されているところよりも小さく、正社員が少なく、繁忙期に依頼を受けることが多かった。当然、健康診断なども受けたことがなく、当時はアルコールチェック・点呼も行われていなかった。それでも無事に運行していたのは幸運だっただけでなく、常に100%健康体であること、乗務まで12時間を切っていれば酒を飲まないと自分を律していたから。自分を律することができなければ人の命を預かることなど出来ないと。

そんなバスドライバーを辞めたのは、多くの命を預かるに足る報酬が得られなくなったから。

ハンドルを握る自分の後ろには、40人を超えるかけがえのない命がある。何事もなく終わるのが当たり前、万が一のことがあれば自らの命で償う覚悟もあった。

バスドライバーが報われない根源は「格安ツアー」の存在と業界に定着したダンピングが原因。今回の事故でも取り上げられたように法で定められた最低運賃を大幅に下回る金額で運行を請け負う、その「不足額」は車両整備費の節約(故障箇所の放置)やドライバーの低待遇で賄うしかない。

大手バス会社のように組合があり、賃金が体系化されていればいいのだが、わたし達はこの「不足額」をモロに喰らう。報酬が安ければ、それなりの人材しか集まらないのは周知の事実で、今回のように大型バスの経験が乏しい運転手が「無理して恐々運行する」ことになる。価格を重視した結果、安全が犠牲になる。わたしは常々twitterでも書き込んできた。

「モノには適価がある」と。

安いだけのツアーにはそれなりのリスクがあるということを理解し、そのリスクを避けるにはもう少し対価を上積みするしかない。

シートベルト未装着が死亡者増の原因と言われている。わたしが乗務していた時は、ほぼ100%装着してくれていた。

始発地、新宿を出発する際、旅行者の担当者が注意事項をアナウンスする。その中にはシートベルト装着をしめてくださいとの項目も入っている。その後、山手通りに入るまでにわたしがアナウンスする。ここでも煩いほどにシートベルトに触れる。

途中、休憩場所での出発前には車両後部まで歩いて人数確認する。この際、シートベルトを締めてない方にはキチンと注意する。ウザいオヤジと思われようと構わない、車内事故はすべてわたしの責任なのだからと。テレビのインタビューで寝ている客には注意出来ないと言っていた運転手がいたが、それでは自分の責任を放棄しているのとかわらない。

もう一つ気になったことがある。亡くなられた運転手を非難するわけではないが、公開された写真が、どう見ても「バス運転手」とは思えなかった。スキーバス乗務の際にはネクタイ着用は免除されていたが、あの写真がどこから提供されたにしても、人を乗せる仕事をしている感じには見えなかった。大型二種免許を持っていれば営業ナンバーのバスを運転することが、法的には可能。しかし、それだけではない。大型乗用自動車を運転するのは、それなりのプライドがないといけない。

どうすればこのような悲しい事故を繰り返さずに済むのか。

「格安ツアーバス」を有難がって利用するな。

そうすれば安価なヤバいバスツアーが無くなり、料金水準が上がり、運転手の報酬も増える。車両に費やす金に余裕が出来、新車が導入され快適な旅をすることが可能になる。

若くして散ってしまった尊い命、二度とこのような報道を聞かなくても済むように祈る。

written by Yoshinobu Iriguchi

※ 写真は斑尾高原への道です。(撮影は5年前)